日本人とF1

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いよいよ2018年シーズンが開幕する。ここ数年は、というか2014年からメルセデスAMGしか勝てなかった(4年連続ドライバーズ、コンストラクターズ制覇)ので以前ほど興味がわかなかったし、特に2015年から復帰したホンダF1の不甲斐なさに嘆いた中高年は多かったと思う。1980年代末のホンダF1第2期の無双状態(マクラレーンホンダで1988年は16戦15勝)を知っているからなおのこと。今年からマクラレーンと縁を切りトロロッソと組むホンダF1。マクラレーンは名門中の名門、フェラーリに次ぐ歴史を誇るチーム、一方、前身はミナルディという中堅の中ぐらいの、天候に助けられた2008年のイタリアグランプリでセバスチャン・ベッテル(現フェラーリ)による優勝というのが唯一の表彰台という小チーム。

テストではトラブル続きのマクラレーンを尻目に順調にメニューをこなし、終わってみれば全10チーム中3番目の周回数(走行距離)というので、日本でもがぜん期待が膨らむ。ちょっと膨らみ過ぎなのが気になるところ。実際には中の中だとは思うけど、これまでの3年間マクラレーンからは不調の原因をすべてホンダに押し付けられていた反動もあり、日本のファンの期待値もわからなくはない。期待値以上の活躍をそれこそ期待します。

日本人とF1というより、日本人と欧米人の考え方の違いを、製造業に当てはめるとF1を見る目も違って見えるのかもしれない。東京大学の藤本教授などの研究によれば、日本人は摺合せ型アーキテクチャに強く、欧米人はモジュラー型アーキテクチャに強い。特に自動車の世界ではモジュラー化は世界のトレンドとなっている。最近EV(電気自動車)が注目を集めているのは、従来の自動車が摺合せ型アーキテクチャの傾向が強かったのが、前述の通りモジュラー型がもてはやされ、なんでもかんでもモジュラー化すれば解決、みたいな風潮となっているから。EVでは自動車の構成部品の中で一番複雑なエンジンが、駆動系を含むモーターという単純なモジュールに置き換えられることにより、よりモジュラー型となり参入障壁が下がるからと言われている。それを先取りしたのがイーロン・マスクのテスラである。トヨタが放棄した北米の組立工場を買い取りレイアウト変更を行い。高級車カテゴリの高価格EVセダンを少量生産したところまでは計画通りだったものの、中価格車の量産を始めたところ、一気に躓いた。自動車の生産ってまだまだ摺合せ型アーキテクチャなんだと実感したところではある。

そうは言っても世の中の流れはモジュラー化で趨勢は決しているので、いつまでも摺合せ型アーキテクチャにしがみついていると本当に乗り遅れるのは日本の製造業の危ないところ。自動車は大丈夫だと思うけど、内需型の製造業はその危機感が今ひとつ共有されていない感じがする。一般的な製造業であれば、「企画⇒開発(設計)⇒試作⇒量産」の順番でプロセスは進む。企画の前にマーケティングとかあるだろうとは思うけど、製造のトリガーとしては「企画」から。「ヨーロッパ式の開発プロセス」はリンク先の姉妹サイトの方が詳しいのでここでは省略するけれど、日本の内需型の製造業ではここまで明確なプロセス化はされていない場合が多い。グローバルに工場を展開し販売もするような企業でないとここまで成熟度は上がっていないのではないかと思う。

企画から設計まではそれほど違いはなく、設計が完了して試作に入ったところから量産に至るまでが違っている。最終試作から比較してみると一目瞭然だと思う。欧米型の最終試作とは、設計図は当然最終版であるが、例えば金型、当然「量産型」を使用し、部品も「量産部品」、使うITシステムもリリース済みという徹底ぶり。最終試作は初期少量生産に限りなく近い。一方、日本では最終試作はあくまでも試作、図面も最終版かどうか怪しいし、部品に至っては試作品の場合もあるし、金型だって試作型か手仕上げかもしれない。ITシステムなんて量産が始まってから販売開始までに間に合えばいいよ、ぐらいのノリ。ちょっと極端な例かもしれないけどこのぐらいの違いがある。決定的な違いは部品表へのドキュメンテーションとマテリアルマスターへの部品登録がされるか否か。日本ではドキュメンテーションが無いもんだから生産工場が図面から独自にM-BOMを起こし部品をマテリアルマスター登録し部品調達を購買部に頼むことになる。一工場のみで生産するならなんとかなるが、複数工場が一枚の図面から各々M-BOMを起こし部品をマテリアルマスター登録したらどうなるか。工場毎に生産管理システムが個別に必要になるし、部品を集中購買出来なくなるし、同じ商品なのに生産工場によって修理部品が異なるなど、問題だらけになってしまう。

こんな状態になった会社では、ある生産工場のシステムだけを取り上げて置換を図っても根本的な解決にはならない。会社全体のプロセスを見直さないことには、何も改善されない。一番手を付けるべきなのは最上流の「開発・設計」部分。設計段階から、マテリアルマスターに部品を登録し「成熟度」を使って使用可能なフェーズをコントロールする。成熟度が「試作」段階の部品は試作でしか使用できない。出図と同時に「成熟度」が「量産」となり量産手配が可能となる。設計初期からドキュメンテーションされているので購買部でも同一図面を用いて各フェーズに使用する部品を全国分一括手配可能となる。同一商品であれば同一の部品を使うので部品手配・在庫管理の効率化が図れる。

開発・設計段階で「生産」を意識したドキュメンテーションが行われれば、E-BOMからM-BOMへの変換はほぼ自動で行われ、最上流で図面とドキュメンテーションが一つしかないので、下流のITシステムが工場毎に複数必要なんてことも無い。

フロントローディングと呼ばれる手法だけど、言葉だけじゃなくて背景にある本質も見抜かないと、というのはどんな世界でも共通の課題ではある。

摺合せ型とモジュラー型アーキテクチャの話がどっか行った感があるけど、とりあえず図面だけ完成すると、工場側で何とか作ってしまえるという原点が、ある意味、摺合せ型アーキテクチャの源流にあるように思う。個々人のスキルの高さに依存する部分では日本人の方が優れている。優れているがためにそれが弱点にもなる。

電話のモジュラージャックって、4線とか8線の電話線を効率的に接続するために使われるものだけど、モジュラージャックを使用しない場合、双方が4線とか8線の0-3や0-7の意味をその場で摺り合わせながら接続しないといけない、モジュラー化されていれば、0-3や0-7の意味が事前に定義され、その定義に従ってモジュラーのオスとメスが既に接続されているから現場での摺合せは不要、、、なんかそんな感じに近いんじゃないかと。「図面だけ出来ちゃってるけど、これなんとか工場で作れませんか?」って声が今でも聞こえてきそうで。。。事前に決めておけないやんごとなき事情があるとは思うけど。事前に決めてあればジャックに挿すだけなら誰でもできる。4線とか8線を一本一本繋ぐのはある程度の職人技が必要だよね。

なんかそんな感じがしないでもない。この辺は姉妹サイトで書いた方がいいのか、ここで個人の感想を書いた方がいいのか、悩ましい。働き手が移民かどうかとか、ほぼ単一民族の日本人という幻想というか妄想なんかも加味しないといけなくてここでは書ききれない。「梅は咲いたか桜はまだか、、、」

いずれにしても摺合せ型とモジュラー型アーキテクチャのいいとこどりをしたはずのトロロッソホンダには大いに期待したいのである。

最終更新日: 2019年7月1日

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